元アジア王者ウダの東京2020オリンピックMTBテストイベント総括
2019年10月6日(日)、東京2020オリンピックに向けたMTBのテストイベント「READY STEADY TOKYO自転車競技(マウンテンバイク)」が、日本サイクルスポーツセンター(静岡県伊豆市)内の伊豆マウンテンバイクコースにて開催された。 海外からもメダル有力選手が多数参加し、オリンピックのために作られた全長4km、高低差180mのコースで世界レベルのパワーとテクニックが披露され、大いに会場は盛り上がりを見せた。
今回の会場でテストイベントを観た、MTBクロスカントリーの元アジアチャンピオンであり、現ブリヂストンサイクル社員である、ウダこと宇田川聡仁にレースの感想と1年後に迫った東京2020オリンピック本番への展望について話を聞いた。
ーー 今回の初公開されたコース全体を見ての印象はどうでしたか?
宇田川:コンパクトなエリアなのに、じつに様々な要素が取り入れられていて、観る側を飽きさせないコースだと思いました。日本では考えられないような人工セクションも多数あり、難しいが、奇麗に走ればスピードにも乗る、攻めがいのあるコースという印象でした。
ーーレースの勝負所は?
宇田川:コース上で、踏める場所は2か所であり、スタート直後の「天城超えエリア」と、「フィードゾーンの前」。ここでいかに踏めるかが、勝敗を決するポイントとなりそうです。ほとんどの坂が高強度かつ短いものなので、インターバルが多くかかります。結果的に前述の2か所で力強いペダリングができる選手と、我慢できない選手で大きなタイム差が生まれるでしょう。
スタート直後の「天城超えエリア」。パワー勝負となる上り坂は迫力満点
フィードゾーンの手前の平坦部分も大きな勝負どころになる
ーーどういったタイプの選手が有利なコースですか?
宇田川:繰り返し訪れる上り坂で、高強度のインターバルに耐えられ、かつスピードのある選手が有利になると思います。集中力を切らし、ラインを外すとすぐに落車に繋がるテクニカルな場所も多く、攻めつつも冷静な判断も必須です。
テストイベントでも繰り返し訪れる高強度なインターバルセクションに苦しむ選手が多かった
ーー おすすめの観戦エリアはどこでしょう?
宇田川:MTBの良いところは、コンパクトな周回コースのため移動しながら何度もレースを観られるところ。スタート直後の天城越えでの激しい位置取り合戦を観た後に、移動して散り桜のドロップオフでのジャンプを観戦するなどがおすすめ。フィードゾーン直後のロックセクションも迫力満点なので、周回数の計算をしながら自分なりの観戦ルートを計画するのが良さそうです。
最終ラップはやはりゴールで観戦をしたいところですが、ゴール付近が人だかりで見えにくい場合は、スタンドから観戦するのもアリですね。
コース脇では観客と選手が非常に近いので、選手の息づかいなどもぜひ感じてもらいたいです。
「散り桜」と名付けられたドロップオフはコース最大の見どころのひとつ。天気が良ければバックには富士山の姿も
ーー 日本選手が世界のトップと戦うためには本番までにどのような対策が必要ですか?
宇田川:高強度でのインターバルに耐えられる練習が必要です。練習走行中に落車した選手も多かったと聞いているので、技術面でも強化していかねばなりません。
ーー 今回のテストイベントでは、東京2020オリンピックの金メダル有力選手も多数参加されましたが、1度本番コースでレースしておくことのメリットは大きいですか?また、彼らは本番までに.どういった作戦を練ってくると予想されますか?
宇田川:もちろんメリットは大きいと思います。ロードレースと比べると、同じ場所を何度も通過するために、コーナーも限界ギリギリを攻めてきます。1コーナーあたりコンマ何秒詰めるだけでも、1周すればかなりの秒数になります。
それ以外にも、手前のコーナーの速度が少しでも速ければ、次の上り返しの途中まで漕がずに行けて、体力を温存できるなども、MTBの重要なテクニックです。きっちり走行ラインを頭に入れて、身体に覚えさせることが大切です。勉強も同じですが、時間を空けてから、改めて復習すると身体が勝手に動くと言いますか、今回参加した選手は試走も含めコースを身体で覚えることができたので、その経験は本番にも活かされると思います。コースが明らかになったことで、バイクのセッティングも決めてくるでしょう。
最終周回まで勝負がもつれ込んだ男子。各選手が対策を練り、本番はさらなる接戦となることも予想される
ーー 今回は比較的涼しいなかでのレースでしたが、当日はもしかしたら雨の中でのレースという可能性もあります。そういった場合に戦い(走り方)は変わりますか?
宇田川:走り方も変わりますし、タイヤなどの機材も変わります。具体的にはサスペンションのセッティングや、泥の付着がひどい場合は自転車(泥詰まり対策の為にフレームのクリアランス)も変えてくるでしょう。ウェットな路面になると、ノブのついたタイヤで走るために、周回を重ねるごと走行ラインが削れ、前半と後半では路面状況や走るラインも変わってくるのも見どころだと思います。
ーー 最後に、オリンピック後のこのコースの活用について何かあれば。
宇田川:世界レベルのコースと言って間違いないので、今後は全日本選手権はもとより、アジア選手権、世界選手権なども開催して欲しいですね。オリンピックで使ったコースとして残しつつ、未来のオリンピアンを育てるための子どもたちの体験の場として、活用できたら理想的だと思います。テクニカルな部分はエスケープゾーンを作ったりして工夫していけば、「いつかはこのセクションをクリアしてみせるぞ!」みたいな感じで、子どもたちも目標を持ってMTBに取り組んでくれるのではないでしょうか。
選手と観客との距離が近いのもMTBレースの魅力のひとつ
抽選で選ばれた全国のMTBファンが駆けつけ、世界レベルのレースを満喫した
また会場では、来年の本番を想定した多言語情報アプリの運用や避難訓練も実施され、本番に向けた準備が着々と進んでいる印象を受けた。来年の夏、さらにハイレベルなレースがこの場所で展開されることが、いまから楽しみだ。
READY STEADY TOKYO HP ⇒ https://readysteady.tokyo2020.org/ja/
最新記事
Article