W杯開催中! 飯島誠のトラックレース総ざらい 【Vol.5 マディソン】
オリンピック3度の出場経験を持つ飯島 誠によるトラック競技解説連載。連載5回目は"バンク上のサーカス"とも形容される「マディソン」の見どころについてお伝えしていきます。
阿吽の呼吸で
ポイントを積み重ねる
マディソンは2選手がペアとなり、交代しながら規定周回を走ります。10周回ごとにポイント周回が設けられており、ポイント周回では1位から順位に5点、3点、2点、1点と、4位までのペアに得点が加算されます。レース終了後に最も多くのポイントを獲得したペアが優勝です。なお、最終ポイント周回となるゴールでは、ポイントが倍に。また、レース中にメインとなる集団から抜け出し、1周回って再び集団に追いついた(ラップした)ペアには20点が加算されます。
オリンピックでは、男子50km(200周、うちポイント周回20回)、女子30km(120周、うちポイント周回12回)にて競われます。
マディソンでもっとも重要なのは、やはり交代のタイミング。レース展開にもよりますが、ポイント周回に、スプリントを得意とする選手をうまく送り込むというのが、スタンダードな戦い方になります。ポイント周回になるとスピードは70km/h近くに達し、交代するだけでも脚を消耗してしまうので、残り1周前後で、ポイントを獲得すべく交代をするケースが多いです。
他のチームの出方ひとつで、戦況が刻一刻と変化していくので、「これくらいで走ったら、こういう展開になるだろう」とつねに、次の展開をイメージして、行動していくことが選手には求められます。
トラック競技のなかでは、もっとも長い距離で競われ、ポイントを獲得できる周回も多いため、すべての周回ポイントでポイント獲得を目指すのは現実的ではありません。「前半に狙っていく」とか「後半に追い上げる」など、あらかじめペアでレースの戦略を決めておいて、レース中に細かな修正をしながら走ります。
細かな修正といっても、お互いにコミュニケーションを取れるのは交代する一瞬のタイミングだけ。あとは、言葉を発さずとも、お互いの走りを見て状態を察し、フォローし合うことが必要になります。まさしく阿吽の呼吸でレースを戦わなければならず、経験値がモノを言う競技のため、世界の強豪には、長くペアを組むベテラン勢も多いです。
高度技術
ハンドスリングで加速
マディソンで注目してほしいのが交代のシーン。ルール上は、「手または身体にタッチして交代する」とされていますが、ただのタッチでするのではなく、走行エネルギーに変えるために、ハンドスリング(相手を前に投げ出す動作)が編み出されました。
選手たちは簡単そうに行っていますが、このハンドスリングには高度な技術が求められます。腕だけではなく、体幹を使って投げ出さなければならず、自身を支えるためのハンドルの持つ位置だったり、コーナーのカントの利用の仕方だったりと、色々なテクニックが含まれています。
レースをしている選手と、交代をする選手がバンクの中で入り乱れ、そのなかで器用にハンドスリングが繰り出される風景が"バンク上のサーカス"と呼ばれる所以でしょう。
強いチームというのは、ポイントを獲得を狙う重要な局面では、必ず交代のしやすい集団の前方に位置して、自分たちのミッションを遂行します。強豪であるベルギーやデンマーク、スペイン、フランスあたりにも注目して観戦すると面白いと思います。
< 今後のトラックレース国際大会開催スケジュール >
2019年
11/29~12/1 トラックワールドカップ第3戦 香港
※第3戦のチームブリヂストンサイクリング出場選手が決定しました。
男子チームパシュート(窪木、近谷、沢田、今村)
男子オムニアム(窪木、今村)
男子マディソン(窪木、今村 ※リザーブ 近谷)
男子スクラッチ(沢田)
女子ケイリン(太田)
女子スプリント(太田)
12/6~12/8 トラックワールドカップ第4戦 ニュージーランド・ケンブリッジ
12/13~12/15 トラックワールドカップ第5戦 オーストラリア・ブリスベン
2020年
2/26~3/1 世界選手権大会自転車競技トラック種目 ドイツ・ベルリン
<レースレポート>
トラックワールドカップ第1戦(ベラルーシ・ミンスク)
「女子スプリント/太田23位」 ⇒ https://www.bscycle.co.jp/anchor/blog/2019/11/191102-TRK-WC1-Sprint.html
「女子ケイリン/太田10位に」⇒ https://www.bscycle.co.jp/anchor/blog/2019/11/191103-TRK-WC1-Keirin.html
トラックワールドカップ第2戦 イギリス・グラスゴー
「太田と今村が善戦」⇒ https://www.bscycle.co.jp/anchor/blog/2019/11/191110-trkwc2.html
(写真/播本明彦、小暮 誠)
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