女子ケイリン/太田14位、悔しい結果と高評価のはざまで【UCIトラックW杯第5戦 オーストラリア】
女子ケイリン/太田14位、悔しい結果と高評価のはざまで【UCIトラックW杯第5戦 オーストラリア】
2019年12月15日、UCIトラック'19~'20ワールドカップ第5戦・オーストラリア大会にて、TEAM BRIDGESTONE Cyclingの太田りゆは15位となりました。
その走力は確実に上がった太田でしたが、ケイリン1回戦、復活戦ともに思い通りには行きませんでした。
高い評価を受ける反面、悔しい結果が続きます。今の彼女に必要なのは、自身を信じる力かもしれません。
2020年の東京本大会に、ケイリンでの出場を目指す太田。日本が2枠を獲得し、小林優香選手(Dream Seeker Racing Team)と共にケイリンに出場するために、スプリントでの走力を上げてUCIポイントを稼いでいます。ケイリンでは1枠を獲得できる目算、スプリントでももう1枠を取れれば、その夢は叶います。
実際に太田のスプリントでの走力は上がっています。これまで目標としてきた全てを達成しています。200mFTTで記録したタイムは10秒882、10秒台をコンスタントに出せるようになりました。昨シーズンはなかった2回戦=1/8決勝進出も何度も果たしています。
しかしガールズ競輪選手でもある太田がメイン種目とするのはケイリン。スプリントは彼女にとっては枠獲得の手段であり、選手としてはケイリンでの好成績を出しておきたいところです。
2019-2020のトラックシーズン、これまで5戦あったW杯すべてに参戦した太田。第1戦ミンスク(ベラルーシ)大会では順位決定戦に進出し10位となったものの、それ以外の大会では2回戦進出を成し得ていません。
長い連戦に、体力的にも精神的にも疲労は溜まっているはずです。
*1回戦*
スタートラインに並んだのは、その多くが優勝候補と言っても良いほどの強豪たち。スプリントの王者リー・ワイジー選手(香港)もいます。太田はそのリー選手を、中盤からマーク、ピタリと後ろにつきます。
ラスト半周、リー選手が終盤に向けて仕掛け、太田もついて上がります。しかしリー選手はその爆発的な加速力を発揮しきれず集団後方に。リー選手の予想外の失速に焦ったか太田は外から仕掛けますが届かず5位、敗者復活戦へ。
「すごいメンバーの中で、どうやってレースをしようかという考えましたが、自分の力でレースを作るという選択肢も自信もなく。やっぱり私はリー選手が好きなので、彼女を信じて行きました。ただ自分が選んだことなので、後悔はありません」(太田)
*敗者復活戦*
スタート後は3番手にいた太田、周回を重ねるうちに少しづつ位置を後ろに下げ、終盤にまくり上げる体制を取ります。
残り2周、太田がグイグイと上がって自ら仕掛けます。しかしその動きは読まれていたか、合わせるように他選手の速度も上がり、太田は外側で粘ります。
1名のみが勝ち上がる敗者復活戦。最終コーナーに向けてまとまっていく5名の選手、太田は集団に入り最終周回には先行する選手を仕留めるべく加速を開始します。
しかしその加速は先行選手を捉えるには至らず太田は3番手。2回戦へは進めませんでした。
「勝つつもりで、自分でレースを作ろうと思いました。一旦後ろに下がって、自分で流れを作っていって。ゴール前に2番手に入って、と思ったんですけど、まくりに対応できず。やりきったのはやりきったんですが。挟まれて、危なくて、体が固まってしまって。
この時、危ないな、怖いなという気持ちなく踏めていたら、抜けていたかもしれないし、転んでいたかもしれない。あそこで根性を出せるのかどうかがケイリンは大きいと思いますが、でもこの先を考えると体も大事で。。。」
一方、ブリヂストンが機材サポートをする小林優香選手(Dream Seeker Racing Team)は、2回戦に進出するも、ここで破れて7-12位決定戦へ。
小林選手はこのヒート、スタート後から周りを見ながら全体の流れを掴み、集団の中央へと入り込みます。最終コーナーを前に、速度が上がりバラけ始めた集団の、内側前方から飛び出た選手の外側の位置を確かにキープしながら、ゴールスプリントへ。
最終ストレートでの加速はまさに見事の一言、内側選手を差し切り先着でゴール、7位を獲得しました。
最後のスプリント能力もそうですが、そこに到るまでの位置どりと他選手の動きを制する先を読んだクレバーな動き。これこそが、小林選手の強さを象徴しているかのように見えました。
そして太田です。レース後に太田に話を聞きました。得意種目であるはずのケイリンで、思うような結果が出ない彼女の言葉は、自信を大きく失っていたように聞こえました。目からは涙が流れています。
「今、悪いところは自分では感じられません。自分のことは自分ではよくわからないのもありますが、それでもブノア(ブノア・ベトゥ氏=日本トラック短距離ヘッドコーチ)は、悪くないって言ってくれるんです。わからないんですけど。
実は私、「もうできないよ、ダメだよ」と、さっきブノアに言ったんです。でもブノアは「いったい何ができてないの?」と。確かにできていないことは一つもなくて。。。
遠征が続いて、ちょっと疲れました。1週間休んで、日本を離れて合宿して集中します。私たちは私たちのするべきことをするだけです。去年も結果が出たのは、合宿の後ですし」
現在、女子選手たち全体の走力も上がっているのは確かです。例えば200mFTTの最速タイム、リー選手の1年前は今年よりも0.3秒遅いのです。東京本大会を直前に、昨年よりも速いペースで展開し、レース性も激しく狡猾になっているのでしょう。
そんな中で、自分の無力さを感じてしまっている太田。しかし彼女の走りは、確実に向上しています。それはベトゥ氏が言うだけでなく、側から観戦していても明白です。いわゆる歯車が噛み合う瞬間が近くに訪れることでしょう。
ベトゥ氏に、なぜ太田をナショナルチームに選んだのか、その理由を聞いたことがあります。その答えはこうでした。
「見た時にわかったんだ。大勢の中から、あの娘だと。彼女ならできるのがわかった。明確な理由は、ない」。
その人生のほとんどを自転車レースに捧げてきたというベトゥ氏の感覚は間違っていないはず。考えるな、感じろ。理論を覆すのは常に理由なき感覚です。
チームは太田の力を信じています。ブリヂストンを応援いただいているみなさまにも、ぜひ太田りゆの力を信じ、大きな声援を彼女にかけていただきたく願います。そうすれば彼女自身は、自分をさらに信じ抜けることでしょう。
これから2ヶ月の合宿に入る太田。その合宿でさらに成長した走りが次に見られるのは、2020年2月末にドイツ・ベルリンで行われる世界選手権です。より強くなった太田の世界選手権での走りにみなさま、ぜひご期待ください。
【リザルト】
1 BAYONA PINEDA Martha (COL)
2 MORTON Stephanie (AUS)
3 DEGRENDELE Nicky (BEL)
7 KOBAYASHI Yuka 小林優香 (JPN) Dream Seeker Racing Team
14 OHTA Riyu 太田りゆ(JPN) TEAM BRIDGESTONE Cycling
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