飯島誠が観たトラック世界選手権 ~東京2020オリンピックへの展望 ~

2月25日~3月1日、ドイツのベルリンで開催されたトラック世界選手権。梶原悠未選手が日本女子自転車競技初のアルカンシエルを獲得するという快挙を達成した一方で、東京2020オリンピックの出場枠獲得に向けた戦いでは、悔しい結果となってしまった種目も。
現地視察を行った、オリンピックに3度の出場経験を持つ飯島誠に今大会の総括と東京2020オリンピックに向けた展望を聞きました。

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世界の壁の高さを感じた大会初日

今回、トラック世界戦を全日程にわたって現地で視察してきました。目的は機材開発のサポート、そして東京2020オリンピックに向けてのライバル国の視察です。

大会初日から、TEAM BRIDGESTONE Cyclingの選手4名が出場した男子チームパシュートと、2019-2020シーズンのW杯で2戦連続金メダルを獲得し、勢いに乗る男子チームスプリントと注目のレースが続きました。結果はご存知のとおり、どちらも予選敗退という結果に。

男子チームパシュートは、予選で従来の日本記録を3秒以上更新する3分52秒956という好タイムを出しましたが、わずか0.07秒足りずに残念ながら目標としていた1回戦進出とはなりませんでした。
出場した窪木、近谷、沢田、今村の4名は世界と戦う準備がしっかりとできており、自信を持ってレースに臨めたのではと感じています。結果的に4人ともノーミスで完璧な走りを見せてくれました。
数年前に比べると格段の成長を見せたチームパシュートチームですが、世界記録を3度更新して完勝したデンマークをはじめライバル各国も日本と同様にレベルアップしており、思うように世界との差は縮まらなかったという印象です。もちろん選手自身がいちばん悔しい思いをしていると思うので、今回の経験を糧にさらにレベルアップしていってほしいと思います。

男子チームスプリントは直近のW杯において2戦連続で金メダルを獲得できていたこと。加えて、東京2020オリンピック出場の当落線上にいたこともあり大きなプレッシャーを感じてしまっていたようでした。予選の走りは決して悪いタイムではなかったのですが、小さなミスがいくつかあり、走りが重たかったように見ていて感じました。同じく当落線上にいたロシアやポーランドの死に物狂いの走りに比べると、どこか歯車がかみ合わなかったような気がします。

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梶原の金メダル、脇本の銀メダル

今大会では、日本チームから2人のメダリストが誕生しました。
女子オムニアムに出場した梶原悠未は、自転車競技史上、女子としては初の世界チャンピオンという快挙を成し遂げました。1種目目のスクラッチから4種目目のポイントレースまで、どの種目でも落ち着いて戦局を見極め、自分のレースを組み立てられていました。彼女のスピードは世界トップレベルであることは間違いありません。どんな戦況でもスプリントで勝負を仕掛けていける安定感が増してきました。
最終種目のポイントレースでは、ライバル選手との点差を確認しながら、落ち着いて勝利をモノにしたので、最終の得点差以上の圧勝だったといえます。
これまでは追う側でしたが、これで東京2020オリンピックでは追われる側へとレースのなかでの立場が変わります。その状況でどう立ち回ることができるかが、オリンピック本番でのポイントとなるでしょう。

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男子ケイリンでは、TEAM BRIDGESTONE Cycling所属の脇本雄太が銀メダルを獲得しました。脇本に関しては、前回のリオ2016オリンピック出場の経験を生かし、迷いなく自分のレースを貫いたことが結果に繋がったように思います。正直、直近のW杯ではなかなか思うようなレースができていなかったのですが、そのことがかえって彼を吹っ切れさせたのかもしれません。つねに先行する彼のスタイルは会場を大いに沸かせていました。決勝でもここしかないというタイミングで仕掛けたのですが、金メダルを獲得したラブレイセンに力負けしてしまった印象です。彼自身も課題は見えていると思うので、本番までにどうレベルアップできるかが大きなカギとなってくるでしょう。

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課題の見えた橋本と世界に挑んだ太田

男子オムニアムでは、TEAM BRIDGESTONE Cycling所属の橋本英也が世界の強豪に挑みました。直近のW杯では自分の思ったとおりに走れ、銅メダルを獲得できたので、世界戦でも表彰台争いに絡むようなレースができるのではと、本人もイメージしていたと思います。
リオでの前回大会では代表に選ばれず悔しい思いをした経験が、彼を精神的に成長させたと感じさせるレースをしていましたが、ライバル勢がW杯よりもパフォーマンスをもう一段階上げてきたことに、うまく対応ができませんでした。本人もレーススピードがとにかく速かったとコメントを残しています。
オリンピックはさらにもう一段階ハイレベルなレースとなることが予想されます。彼の場合は、これからどれだけフィジカルを上げられるかがポイントとなるでしょう。彼のレースでの読みや戦略を組み立てる能力は世界トップクラスですので、その強みを存分に生かすためにも、フィジカル強化が重要になってきます。

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女子ケイリンおよび女子スプリントに出場したTEAM BRIDGESTONE Cyclingの太田りゆは、成績を出さなければという思いが強すぎで、少し自信のないようなレースをしてしまったかなという印象です。まわりが格上の選手ばかりなので、自分のすべてをぶつけるような思い切ったレースができなかったのは少しもったいなかった。ただ、彼女にとってこれだけ緊張する場面というのは、おそらく初めてだったはず。オリンピックの枠を取りにいくという経験は今後の彼女にとってすごいプラスの経験になったに違いありません。今回の経験を生かして、世界のトップレベルを目指していってほしいです。

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4年に1度の舞台へ、加速する国を挙げた戦い

今回の世界選は非常に会場の雰囲気もよく、平日でも客席は8割以上埋まっていて、盛り上がっていました。日本人の応援の方も多かったです。
会場自体は決してタイムが出やすいバンクではなかったのですが、その中でも多くの世界新記録が樹立されました。やはり4年に1度の舞台に向けて選手たちが仕上げてきているからでしょう。

各国の機材面で気になったのは、DHエアロハンドルです。前面投影面積をなるべく小さくし、極限までコンパクトなエアロフォームを取るために、これまでに以上にエアロに特化した形状のものを使っている選手が多かったですね。トラックフレーム自体は、昨年モデルを使っている国も多く、オリンピック会場で本格的に実践投入される新型バイクもいくつかありそうでした。

国別の状況では、オランダやデンマークなどヨーロッパ勢の活躍が目立った一方で、オセアニア勢があまり元気がなかったような印象があります。オリンピック本番では、どのような勢力図になるかはひとつ注目のポイントとなるでしょう。

今回大会を通じて感じたことは、レースの進化がものすごいスピードで加速しているということ。トレーニングメニューであったり、ライディングフォームの解析であったり、そしてもちろん機材の進化もそうですが、さまざまな解析技術や研究を駆使して、コンマ数秒を縮めていくような、まさしく国対国の激しい戦いが繰り広げられていることを肌で感じました。
東京2020オリンピックでは4年間の集大成として、さらに激しい戦いが繰り広げられるはずです。ぜひ注目してみてください。

(飯島 誠)

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【リザルト】

男子チームパシュート(予選)
1 デンマーク 3分46秒579 (世界新)
2 ニュージーランド 3分48秒742
3 フランス 3分49秒558
8 スイス 3分52秒888
9 日本 3分52秒956(日本新)

男子チームスプリント
1 オランダ
2 イギリス
3 オーストラリア
9 日本 43秒416 ※予選タイム

女子オムニアム
1 梶原悠未(日本)121ポイント
2 PATERNOSTER Letizia(イタリア)109ポイント
3 PIKULIK Daria(ポーランド)100ポイント

男子ケイリン
1 LAVREYSEN Harrie(オランダ)
2 脇本雄太(日本)
3 AWANG Mohd Azizulhasni(マレーシア)

男子オムニアム
1 THOMAS Benjamin (フランス)
2 van SCHIP Jan Willem(オランダ)
3 WALLS Matthew(イギリス)
11 橋本英也(日本)

女子スプリント
1 HINZE Emma(ドイツ)
2 VOINOVA Anastasiia(ロシア)
3 LEE Wai Sze(香港)
16 小林優香 1/8決勝敗退
26 太田りゆ 1/16決勝敗退

女子ケイリン
1 HINZE Emma(ドイツ)
2 LEE Hyejin(韓国)
3 MORTON Stephanie(オーストラリア)
19 太田りゆ(日本)敗者復活戦敗退
19 小林優香(日本)敗者復活戦敗退

  

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