【MTB選手の機材を見る】ぬかるむ泥にも止められない熱い走りと細やかな想い
7月4日、MTBのシリーズ戦Coupe du Japon 富士見大会にて、TEAM BRIDGESTONE Cycling沢田時が優勝しました。
先の炎天下でのJBCFロードレース群馬大会での2位も印象的でしたが、雨の中、寒さの中、そして泥の中でのレースは沢田の得意とするところ。シクロクロスでは現日本チャンピオンでもある沢田は、「コンディションが悪くなるほど、得意です」と、自分の強みをしっかりと自覚しています。
→レポート ・ ロードでも沢田時!2位でフィニッシュの激闘を振り返る【群馬CSCロードレース6月大会レポート】
(沢田、2021/7/4 CJ 富士見パノラマ 優勝)
この沢田の優勝フィニッシュのように、顔もジャージもよくわからないほど泥まみれのコンディションは、沢田自身にとっては有利かもしれません。
しかし、その泥は、機材であるマウンテンバイクを容赦なく傷めつけ、時に機材を壊してリタイア、ということにすらなりかねません。
(平野 2021/7/4 CJ 富士見パノラマ 5位)
泥は、バイク機材を壊すだけでなく、フレームやタイヤにべったりとまとわりつき、車輪を止めてしまいます。
本当に動かなくなるのです。
こんなのは、雨の日のレースは普通です。
しかし、これでもタイヤが回り続けたからこそ、沢田は勝利できました。
そのための準備を周到に、そして綿密に行っているのが、MTBチーム小林監督です。彼はメカニックでもあります。
ここでチーム選手が使うMTB機材の特徴的な部分をお伝えしましょう。
今どきのMTBシーンでは当たり前の、こういった厳しい状況の中でも走り続けるためのMTBならではの特徴です。
ただ、これまでの流れを見ていると、MTBで実用化された技術が、ロードバイクにも落とし込まれていくという方向にあるようです。
ディスクブレーキも、スルーアクスルもそうでした。そういえば9速、10速、11速化もそうでした。古い話です。
まず、SHIMANO《XTR》を使うドライブトレインから見てみましょう。
現在の主流はフロントシングル、前のギアを1枚しか使いません。
フロントディレーラーを使わないので、ディレーラー機材やワイヤー部品といったものも必要なく、スッキリとしたギア周りとなります。
泥が詰まりにくい、トラブルが起きにくい、という利点があります。
軽い。。。。? そこはちょっとわかんないです。
というのも、前が1枚のギアである代わりに、後ろのギアがとても大きくなるからです。
ローギア=一番大きなギアの歯数は51T。
《XTR》では、リアのギア群=スプロケットにアルミ、チタン、スチールの3素材を、軽さと丈夫さを考えた適所に使っていますが、それでも大きさがあるので、重さもそれなりに出てしまいます。
ほら、反対側にあるはずのブレーキローターがすっぽり見えなくなるぐらい大きい。
だからフロントシングルは軽い!とは言い切れない。。。
そして変速段数は12速。トップギアが10Tで、ローギアが51T。ギア比の差もすごいです。
ちなみにロード用のDuraAceは11速、最も差があるギアは、トップが11T、ローが30Tです。
ということなので、変速が必要なのはリア側だけであるMTB。ハンドルの右側に付くシフトレバーで操作します。
しかし、左側にも2種類レバーがついていますね。これらは一体何を操作する?
まずハンドル下のレバー、これはサドルを上下させる操作をします。
『ドロッパー・シートポスト』と言います。
レバーを押しながらサドルに座ると、シートポストが縮んで、サドル位置が下がります。
サドルの位置を下げると何がいいかというと。
(沢田)
こういった、急激に下るセクションでサドルを下げて重心を落とすことで、安全に下れるようになるのです。
沢田は技術があるのでここでは下げていませんが、世界レベルの激しいコースや雨天時の岩の上など、サドルが高いまま無理に走ると、転倒のリスクが大幅に上がります。
ちょっと重くなるかもしれませんが、それより転倒のリスクを減らしたいもの。『自転車競技のアルティメット』とも言われるMTB競技ならではで、世界トップ選手も使う現代の常識です。
そして、今さらですが、フロントサスペンションです。サスペンションがないと、レースはまともに走れません。チーム選手は、SR Suntourの軽量モデル《AXON》を使います。
トラベル量(可動量)は100mmと120mmから選べます。この日は100mmを選びました。
右肩から伸びるワイヤーは、ハンドルの上につくもう一つのレバーにつながっています。このレバーで、サスペンションをロック(固定)させる動きを操作します。
というのも、コースには、凹凸の激しい路面があるばかりではなく、スピードの出る滑らかな路面もあります。こういったところではサスペンションをロックすると、無駄なく走れるからです。
そしてもちろん、前後にディスクブレーキを使います。
円盤型をしたローターの径はフロント、リアともに160mm。土の上は舗装路よりも滑りやすいので、より細かなコントロールができる、中間サイズのローターを選んでいます。
(沢田)
これら装備を備えていても、それでも泥はまとわりつきます。
しかし沢田と平野が、その泥をモノともせず走っていけるのは。
小林監督の、手厚く細やかなバイクへの配慮があるからです。
ここに、泥を走るときの知恵も見えます。
まずホイールのリムとタイヤサイドに、シリコンオイルのスプレーを吹いて、膜を作って泥がまとわりつかないようにします。
また、泥のつきやすい箇所を、ポリッシュで念入りに磨き上げます。
プロチームとして、見た目が美しくなるのは当然ですが、それ以上に、泥を落としたい、溜めたくない、という思いがあります。そのために、もう舐めあげたかのようにピカピカになってレースに出場できます。
チェーンには、ブリヂストンサイクルの潤滑オイルである《グリーンドライブ》を充分に使っています。
どんな泥雨レースでも変速の性能を保てるのを、これまでMTBチームは世界中のレースで実証してきました。ですから、MTBチームのバイクにチェーントラブルは皆無です。
泥の詰まりやすいリアタイヤ付近も、入念に磨きます。外から見えないベアリングなどの回転部品には、防水処理をほどこしています。
(沢田)
(平野)
この機材を信じて、平野星矢と沢田、二人のMTB選手はレースを走ります。
平野は7月26日に開催される、東京2020オリンピック、MTB男子クロスカントリーのリザーブ選手として、最後の瞬間まで備えます。
沢田は、次週のロードレースに出場予定。ロードとMTBの両方で、日本のトップを目指します。
究極のコンディションの中で走り、フィジカルもメンタルも鍛え上げられた、チームブリヂストンMTB選手の二人に、皆さまの絶えない熱い声援を、なにとぞよろしくお願いいたします。
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