秦選手と谷選手が積極的なレースで笑顔のフィニッシュ【東京2020パラリンピック トライアスロン詳報】

8月28日(土)と29日(日)の2日間、お台場海浜公園(東京都港区)を舞台に東京2020パラリンピックのトライアスロンが開催され、チームブリヂストンの機材サポート選手である、秦 由加子選手と谷 真海選手が出場しました。それぞれのレポートをお届けします。


積極的なレースで
表彰台を目指した秦選手

秦さん1.jpg

8月28日(土)、6時31分スタートのPTS2クラスに出場した秦 由加子選手。PTS2クラスは、肢体不自由の障がいの中で最も程度の重いクラスになり、今回の出場は8名。秦選手は世界ランキング3位(8月20日時点)で当日を迎え、金メダル獲得を目標にレースに臨みました。

第1種目であるスイムを得意とする秦選手は、スタートから積極的に動いていきます。風がなく、波も穏やかな泳ぎやすいコンディションのなか、ピッチを活かした大きな泳ぎで、ライバルたちを引き離します。1分前にスタートしたPTS2の男子選手も数名パスして、750mのスイムパートを1位(11分55秒)で終えます。2位には12秒差でストックウェル選手(アメリカ)が続きます。

スイムパートからバイクパートへのトラジション区間、義足の着脱に時間を要する秦選手はライバルに差を詰められますが、1位をキープしたまま20km(5kmの周回コースを4周)のバイクパートへと走り出しました。

秦選手は、コースに応じてANCHORの「RS9s」と「RT9」を使い分けますが、今回は平坦基調のコースのため「RT9」を選択しました。2019年の東京2020パラリンピック プレ大会後から、トランジションの短縮と汗対策のため、義足をつけず左脚だけでのペダリングでバイクを走らせます。1周通過時点で、バイクパートを得意としているライバルたちの追い上げにあった秦選手は、5位に後退。2周目にも後方のストックウェル選手(アメリカ)に逆転を許し、順位を6位としますが、バイクパートの後半もラップタイムを大きく落とすことはなく懸命に前を行くライバルたちを追います。

ランパートはお台場海浜公園周辺の1.5km周回コースを4周する5kmのレース。義足をつけた右脚を、大きく回すように前方へと持ってくる力強いランニングフォームで、先行する選手を追う秦選手。直前の沖縄合宿では、低酸素室も用いながらトレーニングを積んできたそうで、終盤までペースを崩すことなく走り抜けました。

残念ながらランパートで順位を上げることはできませんでしたが、最後の一周はサングラスを外し、応援してくれたボランティアの方や大会スタッフの方に感謝を示す秦選手。最後、ブルーカーペットの直線では笑顔も見え、見事2大会連続の入賞となる6位でフィニッシュ。完走後は倒れこみ、なかなか立ち上がれないほど、全ての力を出し切ったレースを見せてくれました。

以下、レース後に行われたインタビューです。


秦選手レース後インタビュー
「もっと強くなって、この場所に戻ってきたい」

秦さん2.jpg

ーー 最後笑顔も見えましたが、走り終えていかがですか。

秦選手「無事完走できて、ホッとしました。あらためてたくさんの応援をいただき、ありがとうございました。私たち選手が、こうしてパラリンピックの舞台に立てたのは、たくさんの方のご理解とご協力のおかげです。世界中のパラアスリートが積み重ねてきたことを発揮する場所をいただけたことに、本当に感謝しています。今もなおコロナで苦しんでいる方もたくさんいらっしゃると思います。その方々に負けないように、私もレースで全力を尽くさせていただきました。思うようのな順位ではなかったので、すごく悔しいですが、これまで積み重ねてきた練習の成果は、しっかりと発揮できたんじゃないかなと思います。もっと強くなって、この場所に戻ってきたいと思いますので、引き続き宜しくお願い致します。本当にありがとうございました」

ーー 前回のリオ2016大会と同じ6位という結果でした。

秦選手「前回大会の悔しさを、この5年間ずっと心の中に秘めてトレーニングを積んできたので、1つでも上の順位をと思っていましたが、世界のライバルたちは強かったです。また彼女たちと一緒に、私たちの可能性をどんどん広げていきたいと思います。一緒に戦った選手たちにも感謝しています」

ーー バイクを片足でこいだり、いろんな挑戦をしてきた5年間だったと思います。ご自身の取り組みを振り返っていかがでしょうか。

秦選手「こんなに清々しい気持ちでフィニッシュを迎えられたということは、色々な選択は間違っていなかったと確信しています。またさらに強くなるために、たくさんの人の力を借りて、がんばりたいと思います」

ーー 東京の海、東京の街を走った感想を教えてください。

秦選手「自国開催のパラリンピックということで、本当に近くで応援の声援や拍手を、心のなかで聞くことができました。スタッフの方々をはじめ、ボランティアの方々からもずっと『がんばってね』、『応援しているよ』、『みんなついてるよ』っと声をかけていただき、とても力になりました。感謝しています」

ーー 得意のスイムはトップで泳ぎ終えました。スイムに関してはいかがでしょうか。

秦選手「練習の成果がしっかりと発揮できたと思います。耳元でコーチからの『もっとテンポをあげていけ』『いけるいける!練習してきたから』という声が聞こえました」

ーー バイクとランでも、最後まであきらめない走りが見えました。改めて自分の走りについて、いかがでしたか。

秦選手「世界のライバルたちに負けてしまったということを自分のこれからの励みします。彼女たちが、私たちの可能性をどんどん広げてくれるので、それに負けないように、私もがんばりたいと思います」

ホームグラウンドで
粘りのレースを見せた谷選手

谷さん1.jpg

翌日29日(日)、9:31スタートの女子PTS5クラスに出場した谷 真海選手。谷選手は本来TS4クラス(1つ障がいの程度の重いクラス)ですが、パラリンピックではPTS4クラスのレースが開催されないため、自身より障がいの程度の軽い選手たちに交じってのレースとなりました。PTS5クラスの出場選手は10人です。

この日は前日とは異なり、風が吹き、海面にうねりがある模様。スタートから100mほどで、5番手につけた谷選手。得意のバイクとランパートに、有利なポジションで繋げるために、積極的なレースを繰り広げます。ブイの浮く折り返し地点もスムーズにクリアし、5位をキープしたまま750mのスイムパートを終えます。タイムは13分06秒。トップとは1分56秒差です。

義足を装着するためトランジションに時間を要した谷選手は、トランジションパートでルムシュ選手(フランス)にパスされ6位で20kmのバイクパートをスタートしました。谷選手が駆るのはANCHORの「RT9」。強い風が吹くなか、安定したTTポジションでレースを進めます。1周目はしっかりと6位のポジションをキープしていましたが、2周目でコルパクチ選手(ウクライナ)に抜かされ7位に。3周目でさらにエルムリンガ―選手(アメリカ)に逆転されて、8位となります。谷選手もラップタイムをキープして、懸命に前を追います。バイクパートのラストの4周目には9分38秒のベストラップを記録、ランパートへと弾みをつけました。

5kmのランパートの1周目(1.25km)は、5分36秒で通過し、順位は変わらず8位。9位のレーバイ選手(ハンガリー)が、20秒差で迫ってきました。2周目の通過で、同タイムでレーバイ選手に並ばれると、3周目で、レーバイ選手と後方から追い上げてきたビシュコワ選手(RPC)にも抜かれて10位に。それでも最後までラップタイムを大きく崩さずにゴールを目指します。

いよいよラストラップ。ボランティアや近隣住民の方の声援に応えながらゴールを目指します。ゴール前のブルーカーペットの直線に、笑顔で姿を現した谷選手は、大きく手をあげて清々しい表情でフィニッシュ。先着し、谷選手を待っていた9位のレーバイ選手とも健闘を讃え合いました。

以下、谷選手のレース後のインタビューをお届けします。


谷選手レース後インタビュー
「苦しくて最高に楽しいレースでした」

谷さん2.jpg

ーー 最後は声援に応えながら笑顔でのフィニッシュでした。今の想いはいかがでしょうか。

谷選手「すごく苦しかったんですけど、私の場合は順位よりも、この場所に来ることがすごく重要で。ここで戦えたことに、すごく幸せに感じています。最後すごく苦しいランになってしまって申し訳なかったんですけど、応援していただいた皆さんに感謝の気持ちを伝えたいと思います」

ーー 谷選手にとっては、2013年の招致活動から関わってきた本大会でした。東京の街を走っていかがでしたか。

谷選手「一時期はこの日は来ないかもと思っていたので、感謝の気持ちしかないです。結果で応えられたら、もっと良かったのですが。後半はPTS5クラスの出場枠争いをしていた選手たちと走っていて、もっと粘れるはずだったのですが、粘れなかったのが悔しいです。でもこれが結果なので、前向きに受け止めたいと思います」

ーー コース上には職場などもあるとお聞きしました。

谷選手「すごく慣れた場所なので、不思議な気持ちになりましたし、力をもらいました」

ーー 今日のレースは楽しめましたか?

谷選手「苦しさの方が勝ってるかもしれませんが、それも含めてトライアスロンなので最高に楽しかったです!」

ーー あらためて招致からの8年を踏まえて、この東京大会は谷選手にとってどういうものになったでしょうか。

谷選手「一人ではここまで来ることはできなくて、自分のクラスがなくなったり、大会が延期になったり、厳しい時期もありましたが、こうやって大会を開催していただき、自分がこの場に立てて幸せです。本当にありがとうございました」


【リザルト】
東京2020パラリンピック トライアスロン

■秦 由加子選手 女子PTS2クラス 6位 入賞
タイム:1時間28分04秒
(スイム750m:12分07秒/トランジション1:2分44秒/バイク20km:41分30秒/トランジション2:1分53秒/ラン5km:30分30秒)

■谷 真海選手 女子PTS5クラス 10位
タイム:1時間22分23秒
(スイム750m:13分06秒/トランジション1:1分41秒/バイク20km:39分19秒/トランジション2:1分24秒/ラン5km:26分53秒)


たくさんのご声援、ありがとうございました!

*ブリヂストンサイクルはパラリンピックのワールドワイドパートナーです。

最新記事

Article

前の記事へ 次の記事へ