【長迫吉拓】パリ2024オリンピック日本代表候補選手/チームインタビュー

【長迫吉拓】パリ2024オリンピック日本代表候補選手/チームインタビュー

パリ2024オリンピックに出場する、日本代表候補に選出されたチームブリヂストンサイクリング選手へのインタビューです。

長迫吉拓は、このパリ2024オリンピックが、3度目のオリンピック出場となります。リオ2016オリンピックと東京2020オリンピックにはBMXレーシングの日本代表選手として出場してきました。

それが、トラック選手へ転向。その理由は長迫は「メダルを狙うため」と明言してきました。BMXレースで培った爆発的なスプリント力で、チームスプリントの第1走選手として、そのポジションに専念してきました。その結果、世界大会のネイションズカップでは2024の参加大会は共に2位を獲得。メダルの獲得を狙える実力を身につけました。

その長迫の、BMXレーシングからトラックへの転向について、そしてパリ2024オリンピックについて、今感じるところを聞きました。


長迫吉拓 パリ2024オリンピック出場に向けたインタビュー

ながさこ よしたく/1993年9月16日生・岡山県笠岡市出身

・2024年 UCIトラックネイションズカップ第1戦・アデレード 男子チームスプリント2位
・2024年 UCI トラックネイションズカップ第2戦・香港 男子チームスプリント2位
・2023年 アジア競技大会2022 男子チームスプリント優勝

公式プロフィール >>【選手紹介2024】長迫吉拓 プロフィール

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ーー自転車競技に関わるようになったきっかけやエピソードは?

まずBMXですが、僕の地元が岡山県の笠岡市で、父が脱サラをして薔薇園を始めたんですが、たまたま道を挟んだ目の前にBMXコースがあって、そこでちょうど補助輪が取れた4歳ぐらいの時に、遊びで乗ってたのがきっかけです。

その時乗ったのは、ホームセンターで売ってるキャラクター自転車のようなもので、コースで乗っているお兄ちゃんたちの自転車と自分の自転車が違うのはなんとなくわかってて、でも何が違うのかわからない。で、いっぱいコケるんですけど、ついに壊れて次のを買わなきゃいけなくなった。ホームセンターに行って自転車を見たんですが、「いや、あのお兄ちゃんの乗ってるのはこれじゃない!」って(笑)。

そこからお父さんがBMXのお古を探してきてくれて。自分に合ってないサイズだったんですが、当時は保育園から帰ってから、もうずっと乗っていました。小学校に進んでも、すぐ帰宅して乗ってたり。BMXの友達が約束しなくてもコースに行けばいて。本当に雨の日以外は乗ってた感じですね。

ーー小中学校はずっとBMX漬けだった?

でも中学校の時は部活に入ってもいましたし、週末だけ乗っていました。「コースが目の前にあって、毎日乗れていいよね」と言われるんですが、あっても一人じゃ乗らない。一人で練習しても面白くないし、だから平日は部活や友達と過ごして、週末に乗るという感じでした。ただBMX漬けの生活だったことは間違いないですね。

ーーそんな中でレースの成績が上がっていった?

いえ、当時年齢別のクラスで走ってる時は優勝したこともないし、たまに表彰台に乗るぐらいでした。例えば自分がコーチとして自分を見たら、伸びると思える選手じゃなかったでしょうね。中学校3年生ぐらいから体格的にも大きくなってきて、その辺から少しずつ、勝てなかった選手に近づいて、並ぶようになってきた感じです。

ーーオリンピックを意識したのはいつ頃?

BMXレーシングがオリンピック競技になったのが北京2008オリンピックからだったんですが、当時の自分はオリンピックに行きたいなんて嘘でも言えないようなレベルでした。ただ2010年からユースオリンピックが始まり、そこにたまたま年齢が合ったので初めて日本の国旗とオリンピックマークをつけてシンガポールに行けました。

2012年にエリートの年齢になって、オリンピックを狙えることになったんですが、意識するのが遅かったのが現実でした。海外のレースにも行けなかったので、ロンドン2012オリンピックは遠かった。ただ世界選手権がその年の5月末にあって、そこでいい成績を出せばオリンピックの枠が獲れるというのでスイスで練習を重ねたんですが、当時、1ヶ月前に骨折しちゃって。一応レースは出たんですけど、結局ダメでした。

ーーBMXでリオ2016オリンピックと東京2020オリンピックに出ましたが、トラックが現実的になったのはどういう流れ?

2016年のリオオリンピックの直前に、スイスでジュニアのトラックの世界選手権があったんです。その時に来ていたジュニアのコーチに、トラックのナショナルチームの練習混ぜて欲しいとお願いしたら、練習に来るのはいいけど一回テストをして欲しい、となりました。当時僕は、自転車は自分の脚がエンジンだし、エンジンが大きいほど速く走れるだろうなと思っていました。BMXはテクニックでカバーできる部分もあるのですが、トラックではそうはいかない。そこでトラックの練習を取り入れたらBMXにも活きるかなって。

実際にトラックのテストを受けてみたら、今からでも競技者としてできる、と言われました。その時はトラックのシーズンが冬で、BMXが夏。両方できると思ってトラックを始めたのがきっかけです。

ただ、2018年にはなかなか思っていたようなトラックの結果が出ませんでした。このまま両方を続けたら東京2020オリンピックでのBMXもダメになるかもと思い、トラックは一回やめて、BMXに集中しました。ただ東京2020オリンピックでの結果は17位と中途半端でした。そこでもう一度BMXでオリンピックに挑戦するのか、となった時に、確かに出られはするかもしれないけれど、メダルを狙えるか、という面では難しいと思いました。

実際オリンピックに行ったから人生変わったかっていうと、現状では変わってないとしか言えない。だからオリンピックでメダル獲ったらどう変わるのか。わからないですけど変わると信じて今はがんばっています。

ーートラックの難しさ、そして楽しさは?

まず楽しさは、ただ漕いでるだけなのに、なぜか楽しい。なぜかわからないんですけど、なんかただ走っただけなのに楽しい。なぜ楽しいのかは言葉に表せないんですけど。反対に難しさは、シンプルすぎて難しいというところです。漕ぐだけですし、みんな同じ条件で同じところを同じようなフォームで走るんですが、そこにペダリング効率やライン取りだったりなど、シンプルだからこそ効率を求められるところが難しい。

その難しさと楽しさのバランスがいいのかなと思います。

ーーパリ2024オリンピックの代表候補選手として選出された時の気持ちは?

今回は日本代表としてオリンピックに出るだけではなくて、メダル獲得が目標であり、条件でした。その段階の中で、これまでネイションズカップなどメダルを獲らなきゃいけないところで獲れてきたのが、まずは良かったのかなと思ってます。

最終的に出場できると決まるまで、自分が行けるのかいけないのか、精神的に上下しました。自分はチームスプリントの一走しかできないし、チームスプリントでメダルを狙えなかったら、あるいは枠があっても削られてしまう。行けなかったら、今している練習って自分にとって何なんだろう、など自分の中で迷いがあった時間もあり、それがようやくオリンピックに向けて焦点があってきた、という感じです。

ーーこれまで2回出たオリンピックと今回のパリ2024オリンピックと違うところは?

特に1回目は、地元が盛り上がってくれたのもあって、目標を聞かれた時に「金メダルです」と言ってきた。自分のレベルでは今獲れないのに、言わなきゃいけなかった。そう言わなきゃ、特に応援してくれる人たちに失礼にあたると思って口にしていたんですが、それがすごく歯痒かったです。

東京2020オリンピックでは「もしかしたら」ぐらいだったんですが、今は確実にメダルを獲れる位置に来たところ、自信を持っているところが違うのかなと思います。

ーー自転車競技を続ける中で、自分の心を支えとなっているものは?

人生において印象的な場面を思い出す一つの感覚って、例えば匂いや音があると思いますが。僕は音、音楽がその時の瞬間を思い出せてくれるんだなーっていうのに今年に気がつきました。

子供の頃に、自転車が本当に本当に好きだった小学校ぐらいの時に、海外のBMXレース映像を毎晩のように見てた時の音楽を、最近聞く場面があったんですが、それを、わーって思い出して。その音で当時のワクワクを思い出して、それが最近、今はもっと自転車が好きになっているなって感じました。小学校ぐらいから中学校ぐらいの時に聞いた音楽が、今はモチベーションを上げてくれています。レース前とかに結構聞いて、鳥肌が立つぐらいな気持ちになってレースに出る、っていうのが一番いいと思っています。

ーー今乗っているブリヂストンの自転車にはどういう印象がある?

去年、2023年に自己ベストを更新したんですが、その前の自己ベストでは前モデルのブリヂストンのトラックフレームで出したんです。自分のベストタイムはなので、僕はこの自転車が速いと思ったんですが、他の自転車を勧められて乗ってみても、結局タイムは上がりませんでした。

今度のオリンピックも、ブリヂストンの自転車で走る予定です。僕にとってブリヂストンのフレームが一番速く走るから、という理由です。ちゃんとステムがフォークに乗っていて乗りやすいなという印象です。特にスタートは低速から漕ぎ出すので、ちょっとのブレを僕はシビアに感じてしまうんですが、そこがしっかりと自分の動きについてくれるなと感じています。

ーーチームブリヂストンサイクリングに入り、自分の意識はどう変わった?

チームブリヂストンは中距離選手と一緒のチームです。多くのレースでは中距離のチームパシュートが先に走る。最近はどんどん彼らの記録が上がっていっているので、先に走っているし、とてもいい刺激になります。でも負けたくない。中距離に負けたくない、という思いでずっと走ってきました。お互いにいい刺激を与えてきたんじゃないかなと思います。

ーーこのスポーツを通じて表現したいことや伝えたいメッセージは?

自分が感じたところで言えば、BMXは、自分中心でも成り立つスポーツなんですよ。トラックやロードのように、風の抵抗を防ぐために前にいたり後ろについたり、というのがなく、自分勝手でも完結するのがBMXでした。一方で、トラックでは、普段の練習から練習パートナーはすごく大事ですし、そこでギクシャクしたら自分のトレーニングにも影響がある。

特にチームスプリントはチーム種目。自分が失敗した時に助けてくれることもあるし、逆に自分が成功した時に相手が失敗することもある。それを受け入れたり、受け入れてもらったり。普段から本気で取り組んでいるやつが失敗するのは許せるけど、普段からなあなあにしてる奴が失敗すると、やっぱりなって思ってしまう。そのお互いの責任感を、普段から意識できるのは、チーム種目であってよかったなと思います。

一人じゃない。どの種目もどの競技も一人ではないんですけど、でも一人じゃないっていうのはすごく気が落ち着くというか、楽になる。
負けた回数の方が多いんですけれど、その何か成功した場面とか、目指せた瞬間は、今までの個人種目よりは全然何か価値があると感じます。
特に今のチームは、東京2020オリンピックが終わって、言わばゼロから始まったチーム。苦しかった場面が長かったからこそ、いい感動が待っている、みたいな感じはありますね。


こちらのインタビューもどうぞ

>>『長迫吉拓 自転車は僕自身を形成してくれたもの
長い歳月をかけて、やっとひとつの目標を叶えられる時がきた――』

*ブリヂストンサイクルはオリンピックのワールドワイドパートナーです。

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